頑張り続ける“岩”のような自分と、自由に飛びたい“翼”のような願い。
あなたの中にも、そんなふたつの声が存在していませんか?
「やらなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」と自分を奮い立たせる一方で、
「もう疲れた」「本当は、もっと自分らしく生きたい」と静かに訴えるもう一人の自分。
私たちは皆、その“間”で揺れながら生きています。
そして実は、その葛藤こそが、あなたのハートが語りかけているメッセージなのです。
ハートの音色を奏でよう!Heartist 心理セラピストの山形竜也です。
この記事では、主にプロセスワークとHeartistメソッドを融合させたセッションから生まれた、岩と翼が出会い、ひとつになっていく感動的な統合の物語をセッションの事例としてお届けします。
これまでも事例を「Q&A形式」で紹介していましたが、今回はセッションの流れとともに心理的な解説も含みながらご紹介したいと思います。
読むことで、「今の自分のままで大丈夫だったんだ」と、心がふっとやわらかくなる瞬間が訪れるかもしれません。
プロセスワーク(プロセス指向心理学)とは、心や体に現れる違和感、夢、人間関係のトラブルなどを「内なるメッセージ」としてとらえ、それを手がかりに本来の自分に気づいていく心理療法です。アーノルド・ミンデル(1940-2024)は、プロセスワークの創始者の一人です。問題を単に解決すべきものとせず、成長や変容の可能性として扱います。言葉にならない感覚や身体の声、偶然の出来事にも注目しながら、意識の深い層とつながっていきます。
1. セッションの背景とテーマ
今回のセッションは、心理セラピストとして活動するクライアントが抱えていた、ある種の「行き詰まり」から始まりました。
クライアントは長年、人の心に寄り添い、深い変容を促すセッションを提供してきた実績のある専門家です。しかし、近頃、次のステージに向かうための発信や表現ができず、内側にある大きなエネルギーを活かしきれないという感覚に悩まされていました。
「もっと大きなことを成し遂げられる気がするのに、全く動けないんです」
それは、ただの“怠け”や“準備不足”ではなく、自分でも説明のつかないブレーキ感、そして「自己主張ができない」「発信ができない」という不自由さとして現れていました。
このテーマに向き合う中で、クライアントが最も印象的に語ったのが、身体のある特定の部分に現れる違和感でした。
「ちょうど胃のあたりから鳩尾にかけて、キューっと締め付けられるような感じがします。呼吸も浅くなって、どうしようもない無力感に包まれるんです」
その感覚が出てくると、まるで存在そのものが萎縮してしまったかのように、自分を表現することが難しくなるというのです。
プロセスワークでは、こうした“身体症状”もまた、意識されていない内的メッセージの入り口であると捉えます。
つまり、今回のセッションの核心は、「動けないという体験の中にこそ、変容の鍵がある」という仮説に基づいてセッションが始まりました。
2. 【フェーズ1】“岩”との出会い──抑制のエネルギーを感じる
セッションの第一歩として、クライアントには「今この瞬間の身体感覚に注意を向けてください」と促しました。
目を閉じ、静かに呼吸を整えながら、胃から鳩尾にかけての締めつけられるような感覚に意識を向けてもらいます。すると、彼女の内側に、ある“存在”のイメージが浮かび上がってきました。
「ゴツゴツしていて重たい。岩のようです」
それはまるで、体の中に居座って動かない“岩”のような存在。特に、クライアントが何かをしようと動き出そうとするたびに、この岩は力を込めて引っ張り、制御しようとします。
プロセスワークでは、こうした象徴的なイメージが現れたとき、その存在になりきってみるというアプローチをとります。クライアントには、「その岩の存在になって、自分に向かって話してみてください」と促しました。
しばらく沈黙のあと、クライアントの口から出てきた言葉はこうでした。
「行くな。そっちは危ない」
岩は、クライアントが進もうとする道に対して、ただの妨害者ではなく、“守り手”としての意図を持っていたのです。
それはまるで、「飛び立とうとするあなた(クライアント)が、過去に傷ついたり、危険な目に遭ったことを知っている存在」かのようでした。続けて岩は言います・・・
「どこかに行ってしまわないように、ずっと引っ張り続けてきたんだ。あなたを小さく保つことで、安全だと思っていたんだよ」
この瞬間、クライアントの表情に微かな変化が現れました。
岩の正体は、“敵”ではなく、かつて彼女を守るために現れた深い愛の形だったのです。
このようにして、セッションの第一フェーズは、「止めている力」に対する戦いではなく、対話と理解のプロセスとして始まりました。
3. 【フェーズ2】“翼”の出現──内なる衝動との再会
岩の存在と向き合い、「引っ張ることで守っていた」というメッセージを受け取った後、クライアントは静かに次の身体の違和感に意識を向け始めました。
すると、不思議なことに、両腕にじんわりとした感覚が浮上してきたのです。
「あれ?両腕が…何か、広げたがっている気がします」
そこからプロセスは一気に動き始めました。両腕に意識を集中すると、それらが単なる腕ではなく、まるで翼のような存在として感じられてきたのです。
クライアントはゆっくりと腕を広げ、まるで羽ばたく鳥のように、その動きを何度か繰り返しました。そうすることで、ただのイメージだった“翼”が、生きた実感として体に宿りはじめたのです。
「気持ちいい……なんだか、すごく爽快です」
その言葉には、解放の歓び、そして長い間忘れていた生命の衝動がにじんでいました。
このときクライアントが体験していたのは、プロセスワークでいうところの二次プロセス——つまり、これまで抑圧されていたが、本当はその人がより本質的に持っているエネルギーの出現でした。
翼は、自由に空を舞い、自分の世界を見渡し、未知の場所へ飛び立つ象徴。
「この翼は、もっと広がりたい。まだ見ぬ世界を感じたいと言っているようです」
内なる岩の重みと制御のあとに現れた、この自由な“飛翔”の感覚。まるで対照的に見えるふたつの存在が、クライアントの中で同時に目を覚まし始めました。
これは、ただの身体感覚の変化ではありません。生き方そのものが変わろうとしている兆しでした。
4. 【フェーズ3】岩の変容──統合へのはじまり
翼の存在が明らかになった後、クライアントはあらためて、岩の方へと意識を戻してもらいました。今度は「止めないで」という願いではなく、岩がやりたいように思う存分やってもらう、つまり「思いきり制御してもらっていい」と伝え、岩にその役割を十分にやらせてみることにしたのです。
すると岩は、しばらくの間、これまで以上に強く、クライアントの身体を引っ張り、翼を縮こませるように働き続けました。
けれども、やがてその岩から、思いもよらない“つぶやき”が聞こえてきます。
「……もう飽きた」
「引っ張り続けるのって、全然面白くないんだな」
それは、長年役割に縛られ続けた存在の、素朴な本音でした。やらなければならないと思い込んでいた「制御」という役割に、岩自身も疲弊し、飽きていたのです。
そこでクライアントが、「じゃあ、あなたは本当は何がしたかったの?」と問いかけると——
「……翼を広げてみたかったんだ」
この言葉は、セッション全体の本質を一気に明らかにしました。
岩は、翼を抑えつける存在ではなく、本当は翼とひとつになって、自由に空を舞いたかった存在だったのです。
この気づきとともに、クライアントの内側に大きな転換が起こりました。
岩と翼は対立するものではなく、もともと同じ根から生まれたものであり、“分離して見えていたものの統合”が起こったのです。
「岩と翼が繋がっている……いや、もともとひとつだったんだ」
この瞬間、胃のあたりから両腕へ、エネルギーが自由に巡り始めたという身体的な感覚がクライアントに訪れました。
それは、エネルギーの再統合であり、内なるパーツたちが共にひとつの存在として目覚めていくプロセスでした。
5. 【フェーズ4】ハートからのメッセージ──全体性の回復
岩と翼がひとつの存在として統合された感覚が訪れたそのとき、ハートチューニングメソッドを用いて、クライアントに自然と、自分の“ハート”に意識を向けてもらいました。
これまで岩や翼という象徴を通じて自己の内面と対話してきたプロセスの中で、彼女の“ハート”はまるで沈黙を破るように、静かに語り始めたのです。
「岩は、翼を広げさせない存在ではなかった。
広げすぎたり、小さくなりすぎたりしないように、
今のあなたにちょうどいいバランスに調整する役割なんだ」
その言葉は、コントロールや制御という否定的な意味合いを超えて、岩という存在を愛とバランスの管理者=“調整役”として再定義するものでした。
そして次にハートは、翼にも語りかけました。
「翼は、そのままでいい。あなたのまま、自由に広がっていい。
岩が見守って、必要なときに支えてくれるから」
そこには、「自由になっていい」という許可と、「支える存在がいる」という安心感が同時に流れていました。
このハートからのメッセージは、クライアントの内側にあった「動きたいけど動けない」「広がりたいけど抑えられる」という分裂状態に終止符を打ちました。
岩と翼は、もはや対立構造の中にある存在ではありません。どちらも同じ存在の一部であり、その中心には“ハート”がいる。ハートがその両者をつなぎ、今ここに全体性としての“わたし”が立ち上がってきたのです。
その瞬間、クライアントは深く呼吸をし、体の奥から自然と安堵の感覚が湧いてきたと語りました。まるで、長いあいだ離れ離れだった家族が再会し、抱き合ったような感覚。
この時クライアントが伝えてくれた言葉がとても印象的でした。
岩はもう岩ではありません。ツルツルに輝いてエネルギーを放つ光の玉のようです
岩は、もう役割を終えることを自覚し、まるで本来の役割に変容していったように感じます。
これは、分断を超えて統合に向かう、魂のプロセスの核心とも言える時間でした。
6. 統合の瞬間と身体的変化
ハートからのメッセージを受け取った後、クライアントの内側では、これまでとはまったく異なる“質の変化”が静かに、しかし確かに起こり始めていました。
最初に現れたのは、身体内部のエネルギーの流れの変化でした。
これまで「キューっと締めつけられていた」と語っていた胃から鳩尾のあたりにかけての重苦しい感覚が、ふっとほどけるようにやわらぎ、そこから両腕に向かってスッと流れるような感覚が走ったのです。
「あ……いま、胃のあたりから、翼にエネルギーが通った感じがしました」
それは、ただのリラクゼーションや一時的な安心感ではなく、内側にあったブロックが解除されたことによる“通電”の感覚。まさに、岩と翼というふたつのパーツが本当に繋がり直し、エネルギーがひとつの回路として循環を始めた瞬間でした。
この体感は、そのままクライアントの深層にある“存在感覚”の変化を意味していました。
「私は今、自分の中のすべてが繋がっている感じがします。
岩だった光の玉も翼も、どちらも私で、ひとつの私として在れる感じ」
プロセスワークでは、このような感覚の変化をドリームボディ(夢身体)の再統合として捉えます。それは、心理的な理解や気づきだけではなく、身体感覚レベルで起きる深い変容です。
この瞬間、クライアントはもはや「岩と戦う私」でも「翼を押し込められる私」でもありませんでした。
彼女の内側にあるそれぞれの側面が、ひとつの生命として手を取り合い、ようやく“わたし”という統一された存在が息を吹き返したのです。
そしてその“統一された存在”からは、やがて新しい表現、新しい行動、新しい人生の創造が始まっていく──そのような予感を含んだ、深く静かな瞬間でした。
7. セッション後の変容と統合の方向性
セッションを終えたとき、クライアントの表情は明らかに変わっていました。柔らかさと芯の強さが同時に立ち上がり、何かが「戻ってきた」ような印象すらありました。
「飛びたい」と「止まりたい」という、これまで長く続いてきた内なる分裂が、ようやく“和解”した感覚です
この統合は、ただ「どちらかを選ぶ」ことではなく、それぞれの存在が持つ知恵と役割を尊重し、共に在る新しい関係性を築くというものです。
岩は光の玉として、これからもクライアントの内に存在します。それはもはや、抑圧やブレーキとしてではなく、「調整役」として、翼が飛び立つタイミングや方向をそっと見守り、必要なときに支える存在として。
翼もまた、これからは“自由奔放に突っ走る”のではなく、光の玉と呼吸を合わせながら、自分にとって無理のない自然な広がり方をしていく。
この関係性を体で思い出すために、クライアントは日常の中でいくつかの具体的な“リマインダー”を取り入れることにしました。
- 毎朝、両腕(翼)をゆっくりと広げる「羽ばたきの儀式」を行うこと
- 発信や表現の前に、「光の玉よ、今日も見守っていてね」と声をかけること
- 自分を責めそうになったとき、「今どちらが話してる?岩?光の玉?翼?ハート?」と内的対話をすること
こうした小さな実践を通して、統合された「光の玉と翼のわたし」として日常を生きる道が始まっていくのです。
このセッションは、Heartistとしての視点から見ても象徴的なプロセスでした。
Heartistとは、「ハートの音色を奏でる存在」であり、自分の内にある男性性と女性性、行動と静寂、制御と衝動、過去と未来といったあらゆる二元性をハートでつなぎ直す生き方を意味します。
今回のセッションで起きたのは、まさにそのHeartist的統合モデルそのもの。
「岩と翼が出会い、ハートによって関係性が調律され、生命全体としての音色が響き出す」
これこそが、抑圧されたパートを排除せず、全てを包含しながら生きるHeartistの姿です。
クライアントは今、ようやく“自分という楽器”を奏ではじめたところに立っています。
そしてこれから、その音色はきっと、誰かの心にも静かに、そして力強く届いていくことでしょう。
8. 解説|このプロセスの心理学的・象徴的意義
このセッションは、プロセスワーク(プロセス指向心理学)の視点から見たとき、非常に典型的かつ象徴的な“変容の構造”を持っていました。
プロセスワークでは、人が抱える問題や症状、葛藤、夢や身体感覚といったものを、「プロセス(内なる流れ)」として扱います。それは「何かが悪い」ではなく、「何かが起ころうとしている」と捉えるアプローチです。
本事例では、「発信できない」「動けない」という状態から始まりましたが、そこに対して私たちは“何とか動けるようにしよう”とするのではなく、まずはその中に潜む意味やエネルギーを丁寧に探っていくプロセスをとりました。
●「内的な役割の演じきり」がもたらす変容
プロセスワークの鍵となる手法の一つが、内的な登場人物(サブパーソナリティ)になりきることです。今回のケースで言えば、岩という象徴がまさにそれにあたります。
クライアントは「岩のような存在になりきってみる」ことで、それが単なる抑圧者ではなく、「危険から守る」という意図を持った存在であることを知り、さらにその役割を最後まで演じきらせることで、「もう飽きた」「本当は翼を広げたかった」という本音にたどり着きました。
このように、抑圧されたパーツを否定せず、十分に語らせ、役割を果たさせることで、自然とその奥にある“変容の種”が開いていくのです。
●エゴの変容と本質の再接続
このセッションは、「岩」が象徴していたエゴの構造と、それがいかにして変容していくかを如実に示しています。
エゴはしばしば「抑圧するもの」「制限するもの」としてネガティブに捉えられがちですが、実際にはそれは私たちを守るために形成された知恵であり、愛でもあります。
そしてそのエゴが、自らの役割に気づき、本来の欲求(=翼と共に在りたい)に気づくことで、ハートに繋がりなおすというプロセスこそ、真の意味での“エゴの変容”です。
それは、エゴを排除するのではなく、本質と再び結び直すことによって進化させていく道です。
●ハートからの叡智として統合されることの意味
このプロセスの中心には、常に「ハート」がありました。
岩も翼も、その存在だけでは分裂したパーツにすぎませんが、ハートの声がそれらをつなぎ、役割を超えて調和させたとき、初めて一つの生命としての“わたし”が現れました。
プロセスワークでは、このような統合の瞬間を「メタレベルからの再調整」とも呼びます。それは、思考でも感情でもない、存在の中心=ハートから立ち上がる“調律の知恵”です。
クライアントの中で起きたこのプロセスは、誰の中にも存在する内的な統合の可能性を示しています。葛藤や分裂を「問題」と見るのではなく、生命が本質に回帰しようとする動きそのものとして受けとめること。
それこそが、Heartist的心理セラピーの核心でもあります。
9. 終わりに|誰の中にも“岩と翼”がいる
このセッションは、とても象徴的で美しいプロセスでした。しかし、これは決して“特別な人”にだけ起きる変容ではありません。
誰の中にも、岩のような存在がいます。
それは、無意識に自分を守り、外の世界から身を隠そうとする力。
同時に、誰の中にも翼があります。
それは、自分を超えて広がり、まだ見ぬ世界に飛び立とうとする衝動。
ほとんどの人が、そのふたつのあいだで揺れながら、時に片方を否定し、もう一方に偏って生きています。
けれども、本当の統合は、「どちらかになること」ではなく、
「どちらも受け入れて、ひとつの存在として共に生きること」にあります。
岩は制御するものではなく、調和を保つ賢明な力。
翼は暴走するものではなく、魂の本音に従って舞う創造の力。
このふたつがつながり、ハートという指揮者のもとで響き合い始めたとき、
私たちはようやく自分という楽器を本当に奏でることができるのです。
それこそが、Heartistとしての生き方。
自分の内なる音に耳を澄ませ、抑え込んできた力とも手を取り合い、
そして、いまここにある命を、まるごと使って奏でていく。
あなたの中にも、きっと岩がいて、翼がいて、
そしてそれをつなぐ、静かで確かなハートの声があるはずです。
どうか、その声にそっと耳を傾けてください。
そして、あなたの“音色”を、この世界に響かせてください。
Heartistとしての旅は、すでに始まっています。
山形竜也のセラピーにご興味をお持ちの方へ
今回の事例のように、ブレーキ(岩)とアクセル(翼)を同時に踏み込んでいる感じがして、人生のネクストステージへなかなか進めないとお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。